太陽系の「石のタイムカプセル」の”模様”を数値計算で再現!〜小惑星や隕石に含まれる不思議な形をした鉱物の結晶成長過程の解明へ〜

名古屋市立大学 三浦均准教授、本専攻 中村智樹教授、森田朋代さん、渡邉華奈さん、中国科学院・立命館大学 土`山明教授、北海道大学 木村勇気教授、宇宙航空研究開発機構 小山千尋研究開発員らの共同研究グループは、小惑星や彗星、隕石などの地球外物質に含まれるミリメートルサイズの球状粒子「コンドリュール」が溶融状態から急冷凝固する過程の数値シミュレーションを行い、特異な形の鉱物「棒状カンラン石」の結晶成長過程を世界で初めて理論的に再現しました。本研究成果により、今後、国際宇宙ステーションにおける微小重力環境下でのコンドリュール再現実験と合わせて、初期太陽系における物質進化過程や惑星形成過程の理解が飛躍的に進むことが期待されます。

本研究成果はScienceの姉妹誌である「Science Advances」(令和7年5月24日付)に掲載されました。

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太古の昔、生命を育んだ海は「緑色」だった!?~25億年前の地球と光合成生物の進化の解明~

名古屋大学大学院理学研究科の松尾 太郎 准教授、三輪 久美子 特任助教らの研究グループは、京都大学、東北大学、東京科学大学、龍谷大学との共同研究で、地球と光合成生物のやり取り(共進化)を通して見えてきた、シアノバクテリアの光アンテナの初期進化とそれを牽引した「緑の海仮説」を提唱しました。

シアノバクテリアは地球における生命の多様化と地球表層の酸化の起点となった重要な光合成生物であるものの、シアノバクテリアがクロロフィルの吸収する青や赤と相補的な緑の光を利用して繁栄してきた理由は分かっていませんでした。緑の光を光合成に利用するには、緑の光を吸収し、その光エネルギーをクロロフィルに渡す仕組みを獲得するとともに、その仕組みが優位に働く環境が必要であったはずだからです。

ここで本研究グループは、シアノバクテリアが誕生した太古代における水中の光環境に着目しました。太古代の貧酸素の水に溶け込んでいる二価の鉄が光合成によって発生した酸素によって酸化され、紫外線から青の光を吸収した結果、水中は緑の光であふれていたことが分かりました。生物実験および分子系統樹解析によって、シアノバクテリアが太古の緑の光環境で繁栄した可能性が明らかになりました。

光合成生物の活動によって生まれた緑の海は、紫外線を効率的に遮へいすることで生命を育む現場になったと同時に、遠くの惑星の生命の存在の指標にもなるかもしれません。

本研究成果は、2025年2月18日(日本時間)付科学雑誌『Nature Ecology & Evolution』に掲載されました。

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巨大火山噴火と寒冷化の長期的な関係~鍾乳石に閉じ込められた7千年前の雨水を分析~

名古屋大学大学院環境学研究科の植村 立 准教授、Syed Azharuddin研究員らの研究グループは、当専攻の浅海 竜司 准教授、国立台湾大学との共同研究により、約7千年前の連続する大規模火山噴火イベントの後に数十年間にわたる寒冷化が起こっていたことを明らかにしました。

研究チームは、過去の火山噴火と気候変動の関係を解明するため、沖縄県南大東島の鍾乳石を分析しました。鍾乳石には、過去の降水が微量の液体のまま保存されています。独自の分析手法により、当時の降水の同位体を測定し、気温や降水量を復元しました。その結果、連続する大規模火山噴火の後、数十年スケールで気温が約2℃低下したことが確認されました。
本研究は、現在の気象現象でも議論が続く数十年規模の気候変動のメカニズムを解明し、火山活動と気候変動の関係を定量的に理解するための重要な手がかりとなります。

本研究成果は2025年2月12日(日本時間)付の国際科学雑誌『Communications Earth & Environment』に掲載されました。

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小惑星ベヌーにアミノ酸など多くの生体関連分子が存在! ~DNA/RNAに必須の5種類の核酸塩基も全て検出~

【発表のポイント】

  • 小惑星ベヌーから持ち帰られたサンプルからアミノ酸や核酸塩基など多種の生体関連分子を検出。
  • 多くの有機分子は低温環境における高濃度アンモニア溶液中の反応で生成した。
  • 地球外環境における化学進化及び小惑星の起源に関する理解が飛躍的に発展。

【概要】

北海道大学低温科学研究所の大場康弘准教授、海洋研究開発機構の高野淑識上席研究員(慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授/同大学院政策・メディア研究科特任准教授)及び古賀俊貴ポストドクトラル研究員、東北大学大学院理学研究科の古川善博准教授、九州大学大学院理学研究院の奈良岡浩教授らが所属する国際研究グループ(OSIRIS-REx sample analysis team)は、アメリカNASA主導の小惑星探査計画「OSIRIS-REx」で炭素質B型小惑星(101955)ベヌー(Bennu)から持ち帰られた粒子から、アミノ酸や核酸塩基、カルボン酸、アミンなど、様々な有機化合物の検出に成功しました。

2023年9月24日、「OSIRIS-REx」探査機によって炭素質小惑星ベヌー試料121.6グラムが地球に届けられ、「はやぶさ」探査機によるS型小惑星イトカワ試料、「はやぶさ2」探査機による炭素質C型小惑星リュウグウ試料に続いて、世界で3例目の小惑星リターンサンプルが実験室で分析可能になりました。NASAゴダード宇宙飛行センターのダニエル・グレイビン博士をリーダーとする有機化合物分析チーム(SOAWG)では、持ち帰られた粒子に含まれる有機化合物を網羅的に分析しました。

分析チームがこれまでに培ってきた地球外試料分析技術を用いて、初期分析用に配分された約300ミリグラムの試料から、アミノ酸33種(うち、14種のタンパク性アミノ酸)、地球生命の遺伝子に含まれる核酸塩基全5種を含む窒素複素環化合物*123種など、未同定なものを含めて10,000種にも及ぶ窒素を含む有機化合物を検出しました。検出されたアミノ酸は右手・左手構造がほぼ等量存在しました。これらの結果は、小惑星が地球に多様なアミノ酸を供給したことを示唆し、地球生命のアミノ酸のホモキラリティの起源の謎をさらに深めることになりました。また、アミノ酸や核酸塩基など生体関連分子合成の材料となるアンモニアの濃度が、これまでに分析された炭素質隕石や小惑星リュウグウと比べて特異的に高いことが分かりました。これは、検出された有機化合物は低温環境におけるアンモニア溶液中での反応で生成した、というこれまでにない地球外有機物合成に関する知見をもたらしました。

なお、本研究成果は、2025年1月30日(木)公開のNature Astronomy誌に掲載されました。

DOI:10.1021/acs.jpcc.4c04187

能登半島の地形は地震がつくってきた2024年能登半島地震と地形の形成の関係を解明

地形は、地震に伴う地殻変動や雨・風・波による侵食・堆積などの影響を受け、非常に長い時間をかけて形作られます。私たち人間が地形の劇的な変化を目にすることは稀ですが、2024年元日に発生した能登半島地震では、隆起に伴う海底の陸化など、顕著な地形の変化がありました。

東北大学、東京都立大学、大分大学、ドイツ地球科学研究センターの研究チームは、衛星レーダ画像解析と野外調査の統合により、今回の能登半島地震による地形変化の詳細を明らかにしました。その結果、現在の能登半島の地形的特徴は、今回と同様のタイプの地震の繰り返しにより説明できることがわかりました。本成果は、大地震が地形形成に果たす重要な役割を鮮やかに示すものです。

本成果は、2024年12月4日午後2時(アメリカ東部時間。日本時間12月5日午前4時)に科学誌Science Advances誌に掲載されました。

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小惑星リュウグウの砂つぶに発見された塩の結晶 ―太陽系の海洋天体とのつながりを知る新たな手がかり―

京都大学白眉センターの松本特定助教らは日本の探査機「はやぶさ2」が回収した小惑星リュウグウの砂つぶから、微小な塩の結晶を発見しました。これらはリュウグウの母体となる天体を満たした塩水が蒸発や凍結によって失われた時に析出した鉱物です。同じく塩類が見つかっているエンセラダスなどの海洋天体とリュウグウの水の環境とを比較する研究につながります。

本成果は、2024年11月19日(日本時間)付で国際科学誌「Nature Astronomy」に掲載されました。
研究グループは松本徹特定助教(京都大), 野口高教授(京都大),三宅亮教授(京都大), 伊神洋平助教(京都大), 松本恵助教(東北大), 矢田達主任研究開発員(JAXA), 上椙真之主幹研究員(JASRI), 安武正展研究員(JASRI), 上杉健太朗主席研究員(JASRI), 竹内晃久主幹研究員(JASRI), 湯澤勇人技術職員(IMS), 大東琢治准教授(KEK), 荒木暢主任研究員(IMS)で構成されています。

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白亜紀前期に起きた地球史上最大規模の火山噴火が111.6万年間におよぶ海洋の無酸素化と海洋生物の大量絶滅を引き起こした

白亜紀前期、地球規模の急激な温暖化の進行と海洋における無酸素水塊の拡大により、海洋生物の多くが絶滅しました。海洋無酸素事変(Oceanic Anoxic Event 1a、以下、OAE1a)と呼ばれるこの大事変についてはヨーロッパや大西洋周辺地域の地層で盛んに研究されてきました。しかし、OAE1aが生起し持続した正確な年代は不明でした。

当専攻の髙嶋礼詩教授、米国ウィスコンシン大学のBradley S. Singer教授らの研究グループは、OAE1aの詳細な年代を明らかにしました。研究グループは、北海道芦別市の芦別岳北西に露出する地層(蝦夷層群)からOAE1a時期に堆積した地層を見出し、そこに数多くの火山灰層が挟まることを発見しました。これらの火山灰層からジルコンを抽出し、U-Pb放射年代測定法で年代を測定した結果、OAE1aは1億1955万年前に発生し、その後111.6万年間、海洋の広い範囲で無酸素環境が持続したことが判明しました。また、蝦夷層群のOAE1aの地層の最上部から、年代の対比に有効な示準化石である浮遊性有孔虫化石を発見しました。この化石種は、白亜紀最大の海底火山体である「オントンジャワ海台」の上に重なる石灰岩からも報告されていることから、オントンジャワ海台の噴火とOAE1aの発生がほぼ同時であることが明らかになりました。今回、年代測定と同時に行った蝦夷層群のオスミウム同位体比の検討からも、OAE1aの開始時に大規模な火成活動の影響が示唆されることから、オントンジャワ海台の噴火がOAE1aを引き起こしたことが実証されました。

本成果は2024年11月21日日本時間4時に、学術誌Science Advancesに掲載されました。

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地球温暖化が海洋プランクトンに及ぼす深刻な影響過去100年間のデータベースの解析で判明

地球温暖化により、私達に身近な動植物の生息域の変化が、既に世界中で多く報告されています。

当専攻の黒柳 あずみ准教授らの国際研究チームは、過去100年間の世界中の海洋プランクトンのデータベースを解析し、その個体数が過去80年だけで約24%(24.24±0.11%)減少していることを明らかにしました。地球温暖化に伴い、より低温の場所へ年10キロ移動し、生息域を変化させていますが、今後、特に熱帯域では、生息域の変化だけでは絶滅を免れない種が出ることが予想されます。

今回の成果の基となったデータベースは、フランスの生物多様性研究財団(FRB)の生物多様性統合解析センター(CESAB)のプロジェクト(FORCIS)により作成されました。海洋プランクトンは地球上の炭素循環にとっても重要な生物です。データベースの作成には、日本人研究者らの研究成果が大きく貢献しています。

本研究成果は2024年11月13日(現地時間)に科学誌Natureに掲載されました。

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19億年前の微生物もリンを含む細胞膜を使っていた 超高解像度の新手法によって初期生命の細胞膜の可視化に成功!

太古の生物が、現在の生物と同じ元素を使って生息していたのかどうかはよくわかっていません。

本専攻の石田章純助教をはじめとする研究チームは、約19億年前の微生物の化石(微化石)を用いた新しい分析手法を開発しました。この手法は、従来困難だった微化石内部の微量元素を高精度かつ高解像度で検出するもので、特にリン脂質に由来する細胞膜中のリンと、代謝の痕跡である酵素に関連するモリブデンの検出に世界で初めて成功しました。これにより、約19億年前の微生物にも、現代のバクテリアと同様の細胞膜と代謝をすでに獲得していた直接的な証拠を示すことができました。

本研究成果は、生命の進化過程を解明する上で重要な手がかりを提供します。将来的には、この手法をより古い地質時代の試料に適用することで、初期地球の生命進化の研究に大きな進展をもたらすことが期待されます。

本成果は9月20日18時(日本時間)、科学誌Scientific Reports に掲載されました。

過去の桜島噴火に共通したマグマ上昇の経時現象を解明―大規模噴火の予測と事前の防災計画に道―

将来の火山災害のリスクを軽減するためには、過去の火山噴火の誘発過程(噴火に至るまでに地下でいつ・どのような現象が起きていたか)を理解することが重要です。

本専攻の新谷直己助教と中村美千彦教授らの研究グループは、鹿児島県の桜島火山において人類が記録に残した有史以降に発生した三度の大規模噴火(1471年、1779 年、1914 年)で噴出した軽石に含まれる鉱物の微細な化学組成を調べました。その結果、姶良(あいら)カルデラ(注1)下の深さ約10 kmのマグマ溜まりから火道の浅部(深さ1~3 km程度)へと上昇したマグマは、約50日程度以上停滞した後に、再び上昇を開始してからは、ごく短時間(動き出してから数日以内)で地表に達していたことがわかりました。

今回、過去の大規模噴火に共通したマグマの上昇過程を詳細に明らかにしたことで、前兆現象を引き起こした原因の解明が進み、将来の噴火発生予測技術の向上への貢献が期待されます。また、将来もし同様の大規模噴火が起こる場合には、マグマがこのような複雑な動きをする可能性があることも考慮した防災計画をたてておくことが必要だと考えられます。

本成果は、8月27日に地球科学分野の専門誌Journal of Geophysical Research: Solid Earthに掲載されました。

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