小惑星リュウグウに存在するマグネシウム炭酸塩の形成史と始原的なブライン(brine)の化学進化を解明

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 大和 裕幸、以下「JAMSTEC」という。)海洋機能利用部門 生物地球化学センターの吉村 寿紘(としひろ)副主任研究員と高野 淑識(よしのり)上席研究員、国立研究開発法人産業技術総合研究所の荒岡 大輔 主任研究員、国立大学法人九州大学大学院理学研究院の奈良岡 浩 教授らの国際共同研究グループは、国立大学法人東京大学、株式会社堀場テクノサービス、国立大学法人北海道大学、国立大学法人東京工業大学、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学の研究者らとともに、小惑星リュウグウのサンプルに含まれるブロイネル石(Breunnerite)(*1)などのマグネシウム鉱物や始原的なブライン(brine)(*2)の精密な化学分析を行うことで、その組成や含有量などを明らかにしました。

小惑星リュウグウは、地球が誕生する以前の太陽系全体の化学組成を保持する、最も始原的な天体の一つです。これまでさまざまな研究グループの分析により、鉱物・有機物と水が関わる水質変成(2023年9月18日既報、2024年7月10日既報)が明らかとなってきましたが、いわゆる「ブライン(brine)の化学組成とイオン性成分の沈殿」に関する反応履歴は、未だ不明のままでした。

そこで本研究では、小惑星リュウグウのサンプルから微小な炭酸塩鉱物(ブロイネル石)の単離・同定と陽イオン成分の溶媒抽出を行い、精密な化学組成分析を行いました。その結果、リュウグウに含まれる鉱物と最後に接触した水の陽イオン組成は、ナトリウムイオン(Na+)に富んでいることがわかりました。リュウグウにはマグネシウムに非常に富む鉱物が複数存在しており、これらが水からマグネシウムを除去した際の沈殿順序を解明しました。ナトリウムイオンは、鉱物や有機物の表面電荷を安定化させる電解質として働いたと考えられます。

本成果は、初期の太陽系の化学進化を紐解くものであるとともに、始原的なブライン(brine)の物質情報、炭素質小惑星上での水-鉱物相互作用の一次情報を提供した重要な知見となります。

本研究の一部は、科研費 基盤研究(課題番号:21H01204・20H00202・21H04501・21H05414)、国際共同研究加速基金(国際共同研究強化、21KK0062)、学術変革領域研究(21H05414)、特別研究員奨励費(21J00504)による研究助成の支援を受けて実施されました。

本成果は、2024年9月5日付(日本時間)で科学誌「Nature Communications」に掲載されました。

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小惑星リュウグウの水に満ちた化学進化の源流と水質変成の証拠 ―アミノ酸や核酸塩基にいたる原材料を発見―

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 大和 裕幸、以下「JAMSTEC」という。)海洋機能利用部門 生物地球化学センターの高野 淑識(よしのり)上席研究員(慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授)、国立大学法人九州大学大学院理学研究院の奈良岡 浩 教授、アメリカ航空宇宙局(NASA)のジェイソン・ドワーキン主幹研究員らの国際共同研究グループは、慶應義塾大学先端生命科学研究所、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社、国立大学法人 北海道大学、国立大学法人 東北大学、国立大学法人 広島大学、国立大学法人 名古屋大学、国立大学法人 京都大学、国立大学法人 東京大学大学院理学系研究科の研究者らとともに、小惑星リュウグウのサンプルに含まれる可溶性成分を抽出し、精密な化学分析を行いました。水と親和性に富む有機酸群(新たに発見されたモノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、ヒドロキシ酸など)や含窒素化合物など総計84種の多種多様な化学進化の現況と水質変成の決定的な証拠を明らかにしました。その中には、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、ピルビン酸、乳酸、メバロン酸などのほか、有機―無機複合体であるアルキル尿素分子群を含んでおり、物理因子と化学因子のみが支配する化学進化の源流が明らかになりました。次に、二つのタッチダウンサンプリングサイトの有機物を構成する軽元素組成(炭素、窒素、水素、酸素、硫黄)および安定同位体組成、分子組成、含有量などの有機的な物質科学性状を総括しました。

本成果は、初期太陽系の化学進化の一次情報を提供するとともに、非生命的な有機分子群が最終的に生命誕生に繋がる進化の過程をどのように導いたかという大きな科学探究を理解する上で、重要な知見となります。

本研究は、科研費 国際共同研究加速基金(国際共同研究強化, 課題番号:21KK0062)、北海道大学 低温科学研究所共同プロジェクトほか、研究助成の支援を受けて実施されました。

本成果は、2024年7月10日付(日本時間18時)で科学誌「Nature Communications」に掲載されます。

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リュウグウ試料に初期太陽系の新しい磁気記録媒体を発見 ~太陽系磁場の新たな研究手法の確立に期待~

北海道大学低温科学研究所の木村勇気教授、一般財団法人ファインセラミックスセンターの加藤丈晴主席研究員、穴田智史上級研究員、吉田竜視上級技師、山本和生主席研究員、株式会社日立製作所研究開発グループの谷垣俊明主任研究員、神戸大学大学院人間発達環境学研究科の黒澤耕介准教授、東北大学大学院理学研究科の中村智樹教授、東京大学理学系研究科の佐藤雅彦助教(現東京理科大学准教授)、橘 省吾教授、京都大学大学院理学研究科の野口高明教授、松本 徹特定助教らの研究グループは、探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから回収した試料(砂粒)の表面を、電子線ホログラフィー*1と呼ばれるナノスケールの磁場を可視化できる電子顕微鏡を用いた手法で調べました。その結果、磁鉄鉱(マグネタイト;Fe3O4)粒子が還元して非磁性になった木苺状の擬似マグネタイトと、それを取り囲むように点在する渦状の磁区構造を持った多数の鉄ナノ粒子からなる新しい組織を発見しました。磁性鉱物は、初期太陽系の環境情報を記録できる天然の磁気記録媒体と言えます。これまで知られていた記録媒体は小惑星内で水質変質時に形成するマグネタイトや磁硫鉄鉱にほぼ限られていました。今回発見した新しい組織、とりわけ多数の鉄ナノ粒子は、これまで情報の無かった水質変質後の時代における初期太陽系内の磁場情報を記録している可能性があります。そのため、今後は未踏の太陽系形成史に迫ることのできる新たな磁気記録媒体として利用されることで、太陽系形成に関する新しいサイエンスが切り拓かれることが期待されます。

なお、本研究成果は、日本時間2024年4月29日(月)公開のNature Communications誌に掲載されました。

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小惑星リュウグウに彗星塵が衝突した痕跡を発見 太陽系遠方から有機物を含む彗星の塵が供給されていたことを示唆

小惑星の表面は大気に覆われていないため、太陽風(太陽から吹き出るプラズマ(電気を帯びた希薄なガス)の風)や宇宙の塵が降り注ぎ、小惑星最表面の物質の化学組成などの特徴を変化させます。本専攻の松本恵助教と中村智樹教授ら、立命館大学、京都大学、東京大学などとの共同研究チームは、探査機はやぶさ2が小惑星リュウグウから持ち帰った岩石粒子の表面を走査型電子顕微鏡で観察し、小惑星表面に宇宙の小さな塵が衝突してできた大きさ5~20マイクロメートル程度の溶融物を複数発見しました。溶融物の3次元CT観察や化学組成分析を行った結果、溶融物は、衝突した彗星由来の塵とリュウグウの表面物質が高温で融けて混ざり合うことで生成したことが分かりました。

彗星は太陽系の遠方で形成され、生命の材料となり得る有機物を多く含むことが知られています。彗星塵の衝突による溶融物の形成は、現在から約500万年前の間に、現在の小惑星リュウグウの軌道上で起こった可能性が高く、リュウグウには、ごく最近まで、太陽系の遠方から有機物を含む彗星の塵が供給されていたと考えられます。

本研究の成果は、2024年1月19日に米国科学振興協会(AAAS)が発行する学術誌Science Advancesに掲載されました。

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小惑星リュウグウの岩石試料が始原的な隕石より黒い理由を解明!

 小惑星回収試料や隕石の反射スペクトルは、観測で得られる小惑星の反射スペクトルから小惑星の構成物質を特定するための手がかりとなります。 東北大学大学院理学研究科地学専攻の天野香菜大学院生(現、客員研究者)、中村智樹教授、国立研究開発法人 産業技術総合研究所の松岡萌研究員、東京大学大学院理学系研究科附属宇宙惑星科学機構・地球惑星科学専攻の橘省吾教授らの研究グループは、小惑星探査機はやぶさ2が小惑星リュウグウから回収した試料を地球大気と反応させないように工夫して反射スペクトルを測定しました。リュウグウ試料、リュウグウと同種の小惑星から飛来した隕石、および隕石を実験的に加熱した試料を比較し、隕石が地球大気の水や酸素と反応したことでその反射スペクトルが宇宙にあった状態よりも明るく変化したことを示しました。本成果を踏まえ、隕石の地上での変質によって反射スペクトルがどのように変化しうるかを考慮することで、観測によって小惑星の構成物質を特定する精度の向上が期待されます。

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小惑星リュウグウが宇宙と実験室で違って見えるのはなぜ?「宇宙風化」が水のしるしを隠す

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)地質調査総合センター 地質情報研究部門リモートセンシング研究グループ 松岡 萌 研究員・デジタルアーキテクチャ研究センター 地理空間サービス研究チーム 神山 徹 研究チーム長は、東北大学大学院理学研究科地学専攻 中村 智樹 教授、天野 香菜 学術振興会特別研究員(地学専攻・博士課程後期)、日本原子力研究開発機構(以下「原子力機構」という)物質科学研究センター 階層構造研究グループ 大澤 崇人 研究主幹、東京大学大学院理学系研究科附属宇宙惑星科学機構/地球惑星科学専攻 橘 省吾 教授、九州大学 理学研究院 地球惑星科学部門 奈良岡 浩 教授・岡崎 隆司 准教授などと共同で、小惑星探査機「はやぶさ2」[1]が小惑星リュウグウ[2]の表面を上空から観測したデータと、リュウグウで採取して持ち帰った(サンプルリターン)試料を地球大気にさらさずに測定したデータの直接比較を行いました。その結果、リュウグウ表面の観測データと、採取試料の測定データはよく一致する一方で、水の有無を知る鍵となるヒドロキシ基(-OH)による吸収に明らかな違いがあることがわかりました。

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放射光X線が地球核の化学組成を変える-新しい絶対圧力スケールを決定-

理化学研究所(理研)放射光科学研究センター物質ダイナミクス研究グループのアルフレッド・バロン グループディレクター、東北大学大学院理学研究科地学専攻の生田大穣特任研究員(研究当時)、大谷栄治名誉教授らの研究チームは、カールスルーエ工科大学量子材料科学研究所のロルフ・ハイト副所長との国際共同研究で、新たな絶対圧力スケール[1](状態方程式)を決定し、それに基づいて、地球の核の化学組成に変更を迫る成果を発表しました。本研究成果は、太陽系外惑星の内部構造だけでなく、数百万気圧の高圧下における、物理学、化学、材料科学に関連するあらゆる物質の振る舞いに再評価を迫る重要な結果です。

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小惑星リュウグウを作った原材料物質と太陽系外縁部の天体を構成する始原的な塵との分光学的関連性

リュウグウは、太陽系初期に形成された母天体がその後破壊され、その破片が再集積してできたC型(炭素質) 小惑星です。2020年、小惑星探査機「はやぶさ2」は地球に5.4 gのリュウグウ試料を持ち帰りました。リュウグウ試料の初期分析の結果、リュウグウ試料の大部分は、リュウグウの母天体を最初に構成していた始原的な無水物質と、液体の水が化学反応し形成された含水鉱物でできていることがわかりました。一方、いくつかの試料には、ほとんど水と反応をしていない岩片(極小変質岩片)があることも分かりました (Nakamura T. et al, 2022)。

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