当研究グループは、地球科学における未解決の現象や問題に鉱物学的、結晶学的知見と手法をもってメスを入れ、その原因やメカニズムの解明を目指す研究を進めています。研究対象として地質試料、岩石鉱物試料に加え、(鉱物学・結晶学のノウハウが必要とされる、活用できるものであれば)環境試料や工学材料に至るまで幅広く扱います。広い視野を持ってグローバルに(地球全体、社会・環境全体を見渡して)新たな課題を探求し、解決を目指したいという思いから、この研究グループ名としました(2020年10月に新設)。
我々が暮らす地球の(目で見える)最小の構成単位は「鉱物」ですので、鉱物の産状や成因、形成過程や物理化学特性を調べることは、より大きなスケールで現れる地質現象の仕組みを理解し、その根底にある物理化学の普遍性を見出すことに繋がります。ここが鉱物・結晶学研究の醍醐味の1つといえるでしょう。一方、金属やセラミクス、半導体などの工学材料のほとんどは無機結晶であり、それらを合成したり、組織や特性を制御したりする上でも鉱物学・結晶学の知識や手法が重宝されます。
フィールド調査からミクロ-ナノ(電子顕微鏡)観察に至るまでの幅広いスケールと階層で「なぜ?」を追求し,局所から得られた情報をマクロへ拡張し、問題の全容解明を目指します。
鉱物結晶の形態・組織とその起源
自然界において鉱物結晶は、多様な色や形態、集合組織を見せてくれます。色は化学組成や微量元素、構造欠陥などが影響し、幾何学的な形態は原子の作る積み木(単位格子)のタイプを反映しています。またしばしば、多数の結晶が集合して放射状や樹枝状、球晶状などの様々な組織を作ります。このような結晶の形態や組織は成長時の周囲の環境条件(成長駆動力の程度)に大きく影響されるため、その表面や内部に残された痕跡や特徴を調べれば、どのような過程・メカニズムによって作られたかを知ることができます。何もないところから結晶が生じるには、平衡からの外れ量である「駆動力」が必要となります。
水溶液中での結晶成長の場合、この駆動力は過飽和度の大きさに相当します。駆動力の程度によって結晶の形態や組織に多様性が生まれるのです。例えば、私が学生時代から研究しているフランボイダルパイライト(黄鉄鉱FeS2の木苺状の集合体)は極めて高い駆動力条件下で形成される究極的な結晶化組織ですが、その生成メカニズムの詳細は未だに解明されていません。当グループでは、天然に産する、または実験室で合成される様々な鉱物結晶を対象にその起源と成因を追求しています。
ダイヤモンドの起源と成因
長年力を入れている研究対象の一つにダイヤモンドがあります。ダイヤモンドは高温高圧下で安定な炭素の結晶で、最も硬い物質です。地球上では、深部マントルからマグマによって運ばれてきたものや、大陸衝突によって地表に露出した超高圧変成岩中に含まれるもの、巨大隕石の衝突によって地表の炭素が変化して生じたものなど、様々特徴を持ったダイヤモンドが産出します。特に、マントル深部に由来するダイヤモンドはその起源と成因が良く分かっていません。地球深部に存在すると考えられる還元的な流体との関係や炭素の起源に関する研究を行っています。また、最近日本では初めてとなる変成岩由来のマイクロ・ナノダイヤモンドを発見し、その起源と成因を追跡しています。一方、隕石衝突によって形成される“衝突ダイヤモンド”の生成機構を考える上でも重要なグラファイト(黒鉛)→ダイヤモンドの直接相転移のメカニズムについても、天然試料と合成実験の両面から調べています。
応用研究
工学系の研究者の方や民間企業との共同研究を通して、鉱物学・結晶学の知識やノウハウ、研究手法が,純粋地球科学だけでなく、材料科学や環境科学、農学など様々な分野へも活用でき、そのニーズは想像以上に多いということを実感しています。例えば、火力発電で石炭を燃やした際に生じるフライアッシュ(石炭灰)は稲作用の肥料(無機肥料)として有効活用されていますが、高温焼成によって得られる同肥料はケイ酸塩鉱物からなるセラミクスといえます。これがどのようなでプロセスで反応・結晶化し、土壌中でどのように溶出してゆくかを調べるには鉱物・結晶学の知見と手法が不可欠です。このように、これまでまだ取り組まれていないような新たな応用研究にも積極的に取り組んでいます。